有人潜水調査船 しんかい6500 ってどんなもの?

親子のための科学
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NHKの人気番組、プロフェッショナル 仕事の流儀で、しんかい6500とその周辺のことが放送されていました。

元関係者として、とても面白く感動して見ましたし、当時を思い出したり、熱い世界だなあとあらためて思いました。
立つ鳥水を濁しまくって逃げるように去っていった身ですが、少しでも海洋業界およびJAMSTECに貢献できればと筆を取りました。

https://www4.nhk.or.jp/professional/x/2019-11-25/21/11617/1669557/

かく言う私は、これまでに1500回を超える公式潜航のうちの3回を経験させてもらいました。

経験値としてはそれほどでもありませんが、当時を思い出して、しんかい6500のことを紹介しようと思います。
情報としては色々間違い、勘違いあるかもしれませんが、現場と世間の中間に立つ私的文書だとしてお許しください。

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しんかい6500 トイレ問題

番組でも紹介されていましたが、船内にはトイレがなく、長い時は8時間ほど我慢を強いられます。
ベテラン、というかビッグな人は、簡易トイレを利用したりするらしいですが、私は水分補給を極力控えたり、前夜の飲酒を控えたり、準備万端で乗り込みました。

そして、3度とも粗相をすることはなく帰船することができましたが、最初の小便の長いこと長いこと。永遠に出続けるのではないかと思われるほど長い時間小便が出続けました。

しんかい6500 狭小問題

コックピットには3人の成人が乗り込むのですが、とにかく狭い。耐圧殻が球形をしているため、平らな地面は球の切断面となり、当然円形をしています。直径1.5mくらいでしょうか?感覚としては畳1枚もしくは2/3畳くらいの狭さです。

操縦席的な椅子があるわけではなく、マットレスが敷いてある床に直接座り、特にやることがない時は乗員3名で車座になったりして、雑談をして過ごしたりします。
基本的には、遠慮がちに足を引っ込めつつ時々姿勢を変えたりしますが、窮屈です。

また、着底すると、パイロットはしんかい6500を操縦をするため真ん中の窓(左右、中央と3つの窓が、基本的には海底を覗くため床に近い位置に、やや下向きについている。)から覗き込むような体勢になり、研究者も左の窓から何か見えないか覗き込むため、ハイハイのような姿勢になったりする。

しんかい6500 寒さ問題

番組で放送されていましたが、乗組員は青い繋ぎのような潜航服と言われる服を身に纏って潜航します。
しんかい6500の潜航中に気をつけていることの一つに火災があります。密閉空間内での空気確保のために、酸素ボンベを使っているため、引火や延焼を防ぐために燃えづらい素材でできているらしいです。また、そのためか厚さもあり、洋上の気候によっては暑いです。

ところが、深海というのはとても冷たく、私は3度の潜航が全て5000mを超えていたこともあり、水温は4℃くらいでした。分厚いチタン合金製のコックピットですが、徐々に熱が伝わり、厚い潜航服を着ていても寒さを覚えたくらいでした。

しんかい6500 ドレスコード

ドレスコードというほど大袈裟な話ではないのですが、上に書いた火事の危険を防ぐために、アルコールや揮発しやすい物質の持ち込みを禁止しています。
その中でも注意されているのが、整髪料や化粧品です。
女性研究者も多く乗り込むため、絶対禁止ではありませんが、華美なメイクは禁止です。

しんかい6500 憧れ

私がしんかい6500に初めて乗り込んだのは、大学4年生の時でした。乗り込んだと言っても、潜航したわけではなく、ブリーフィングと言い、体験として中に入っただけでしたが。
そもそも当時は、学生が潜航することはできませんでした。理由としては、一度も大きな事故はないといえども、潜航でもしものことが起きた場合、命に関わる事態も想定されるため、学生は乗れ(せ)ませんでした。
放送では、学生が潜航していましたが、初めてのことだと聞いています。ここに至るまで、いくつのハードルを超えてきたのだろうかと、多くの関係者の想像を絶する苦労と努力、その積み重ねがあったであろうことが想像されます。

話が逸れましたが、当時の私にはしんかい6500に乗る権利もなく、洋上から潜航を見送り、アッパーデッキにて10秒に一度音波により送信されてくる静止画像を眺め、帰還した潜航研究者の充実した表情が格好良く、少しの羨望を抱くだけでした。

しんかい6500 潜航にかかる費用

実際にいくらかかるのかわからないのですが、母船よこすかやしんかい6500の運行費用やそのものの価値、人件費などを入れると、ちょい千万円とかそれくらいかもしれません。そんな莫大な費用、誰が支払っているのかというと、研究費は国家予算だったりするので、国民の税金でやっていることになります。

私は3回の潜航を経験させてもらいましたが、全てでうまくいったわけではありませんでした。
初めての潜航は、涙も出ないほど悔しかった思い出があります。文字通り右も左もわからず、暗い海底を彷徨った挙句、一つのサンプルも取得できずタイムアップとなり、帰還した苦い思い出です。

放送では、アルビン貝の移動という目的がクローズアップされていましたが、大抵、一つの航海には複数の目的があり、研究者ごと、もしくはその所属機関ごとにやりたいことが異なっていて、それらを複合的に、しかし優先順位をつけながら、航海と潜航が行われます。

なので、同船した研究者同士で協議が行われ、潜航ごとに主目的を決めるので、全潜航でスペクタクルな光景が見られたり、大発見をするわけではなく、至って地味な(個人的感想ですw)内容の潜航の場合もあります。
なので、言い訳ですが、私が初めてだから上手くいかなかったと全責任がかかるわけではなかったのですが、それでも、全てのことが準備不足、覚悟不足だったなと反省したわけでした。

しんか6500 潜航するために

大きく、船の人、しんかいチーム、研究者の3つに分かれます。
船の人は、操船をしたり、しんかい6500を着水・揚収させたり、ご飯を作ってくれたりの仕事。
しんかいチームは、本当は6Kチームと言いますが、しんかいのオペレーション、潜航前後のメンテナンスが仕事。
研究者は、潜航の目的、持っていく道具類(ペイロードと言う)、潜航して行きたい場所などを6Kチームに伝え、一緒に計画を練ること、そして、採取されたサンプルの処理や分析が仕事。

いずれも欠かすことはできませんが、私は研究者だったので研究者目線でしか語れませんが、6Kチームの有能さはもの凄いです。研究者が使用したい道具、観測装置、試料採取装置のことをよく知っていて、場合によっては研究者よりも扱いに慣れています。なぜならば6Kチームのほうが研究者よりも公開に出ている回数が断然多く、前にやったことありますよということがとても多いから。

個人的にも、試料採取装置の動作が不安定だった時に、とても頼りになった思い出があります。
そして、放送にもありましたが、トラブルは突然現場で起きてしまいます。それに対応する手立てを考える時間はとても長いとは言えません。瞬時の判断、決断をやっていかなければならない場面がたくさんあります。

その決断に関して言えば、実は研究者が握っていることが多々あります。結局のところ、研究のために潜航を行っているわけで、船の人も6Kチームも、研究がうまく行くことを願って、助力・注力してくれています。
(船上ではそれぞれのグループ同士で親交を深める場もあり、研究がうまく行くことが何よりの喜びですよ、というような話をしてくださったこともありました。)

そのような『思い』も一緒に潜っているわけで、研究者の決断力はとても大事な要素となってきます。

何かを探すような潜航の場合、詳しい地図などない海底で、どちらへ進むか、最終的には研究者が指示を出すわけです。準備が足りていなかった初潜航の時の私は、まさに露頭に迷ったわけです。
多くの方の『思い』を無駄にしてしまいました。

その後悔から、2度目、3度目の潜航の前には、出来る限りの資料に目を通し、自分の中で何度もシミュレーションをしましたし、同船した研究者や6Kチームとたくさん相談もしました。

みんなの『思い』に自分の思いも乗せ、それが報われた経験はとても大きな財産となっています。

しんかい6500 海底にGoogle MAPなどない問題

海底地図というものはあります。洋上から音波などを使って深さを調べ、それを2次元マップにします。音波装置やGPSの性能が上がり、精緻な地図が作られるようにはなってきているようです。

では、地図を見ながら海底を探査すれば目的地にすぐに辿り着けるか問えば、そう簡単には行きません。その理由は、自分がどこにいるのかを知るための精度がとても低いことです。しんかい6500が海中のどこにいるかをどうやって知るかというと、音波を使って母船よこすかに位置を知らせます。その音波がどこからやってきたかをよこすかがしんかいに応答することで、位置が分かります。
ところが、水深が深くなるほど、そして洋上の波が高いほどに、その精度は落ちていき、場合によっては数10mずれてしまうこともあります。

しかも、深海はとても暗く、しんかい6500に搭載された最新式のライトで照らして見える範囲はあまり広くなく、視界(視程)が良くても数10m程度なので、目的地に近づくまではなんとも不安な航行となります。

ただ、いつもいつも迷子になっているわけにはいかないので、工夫もしています。一度訪れたことのある場所や、もう一度訪れた居場所にはマーカーと呼ばれる、海底に設置するブイのようなものがあり、反射板を施してあったり、トランスポンダーと呼ばれる音波を発する装置がついていたりして、それを頼りに(それを目指して)航行する場合もあります。

しんかい6500 食事問題

まずは船上での食事に関してですが、船の人の中に司厨で働く、いわゆる船のコックさんがいます。乗船者が60人くらいいる中、3人程度で3食欠かさず用意してくれます。

しかも、船は肉体労働、ただ海上を漂っているだけでも、船体の揺れに合わせ24時間態勢でバランスをとっているため、消費カロリーが多いとされています。そのためか、食事のカロリー高めです。特に夕食はメインディッシュが3品くらいあり、ご飯汁物はおかわり自由。多くの人は食べきれず残してしまうことが多いのは少し残念です。
私は、できるだけのカロリーを体に落とし込み、下船後には太って帰るというパターンでしたが、少数派かと思われます。

間食や嗜好品などに関しては、各自自由に船に持ち込みます。外航と言って、外国の港に離着港する場合などには、デューティーフリー価格で注文できたりもします。

そして、しんかい6500での食事に関してですが、日中に潜航を行うため、お昼ご飯が必要になります。そのため、お弁当を持ってしんかい6500に乗り込みます。私は3度ともサンドイッチをお願いしましたが、おにぎりという選択肢もありました。また、水筒にお茶やコーヒーなどを入れて持たせてもくれます。
私はサンドイッチにコーヒーと、船上ではあまり感じる機会のない、ちょっとばかりおしゃれな気持ちで乗り込みますが、結局トイレ問題もありコーヒーは探査が終わった上昇時に啜る程度で、サンドイッチも着底前に慌てて口に詰め込むと言った感じでした。
昼食のタイミングは、調査する深度にもよるかもしれません。私は5000mを超える深さだったため、上下の移動に時間がかかり、その間が暇で、着底してから離底するまでの時間が短くなるため、上下移動中がランチタイムとなりました。

しんかい6500 部屋問題

これはしんかい6500ではなく、母船よこすかの話ですが、乗船者にはそれぞれ部屋が割り当てられます。残念ながら完全個室ではなく、特に学生は2人部屋なことがほとんどです。部屋数が決まっていて、乗船研究者数で割るので、それに限らないかもしれませんが。
この2人部屋には、2段ベッド一つ、スチールデスク一つ、モニター兼テレビ一つ、冷蔵庫一つ、洗面台が一つついていて、あとは、ベッド下に引き出しある程度です。また、諸々安全のため、ドアの施錠は禁止されていたり、夜間のカーテンの開放も禁止されています。
空調的なものも付いていますが、私の経験では、寒いのでたいてい切っていました。
2段ベッドは天井がとても低く、座って過ごすことが難しいくらいです。波が高い時などは、寝ていても転がりそうになるほど揺れたりもしますし、窓に打ち付ける波しぶきや、船体が波を割るゴゴゴ〜っという音でゆっくり眠ることはできません。

一方、研究者の代表者を主席研究員と呼んでいて、その人は首席部屋という一般研究員部屋と比べるとかなりラグジュアルな部屋があります。
そこのベッドはもちろん一段ですし、リビング的スペースがあり、ソファーが置いてあったりします。
この部屋には、宴会などで行ったことがあるだけなので、生活のし易さはわかりません。

また、首席部屋と2人部屋の間に、上席研究員部屋というのがあり、そこは1人部屋です。ベッドに座って過ごせるだけで、とても快適ですし、ドアは閉まらないけれどもプライベートな空間というのは、精神的にとても良いものです。
私は研究者と言ってもペーペーだったのですが、たまたまメンバーのバランス上、上席研究員部屋を与えられるという栄誉をいただきました。

しんかい6500 娯楽問題

これもしんかい6500というよりもよこすかの話ですが、娯楽室というものがあります。そこには大量の漫画や本、テレビゲームなどがあり、自由に利用できます。
普段だったらあまり手に取らないような本でも、周りに他に娯楽がないと、意外と面白く読み耽ったりしました。

また、食堂の脇にソファーとテレビモニターがあり、コーヒーなども用意してあり、寛ぐことができます。電子新聞などもおいてあり、スポーツニュースの話題で贔屓チームの勝ち負けで盛り上がったりもします。

どうしても足りないのは、運動です。船に揺られて体幹は鍛えられるかもしれませんが、筋力や持久力は衰えてしまいます。それに、爽やかな汗を流す機会もなく、ストレスが溜まることもあります。
そんな時は、船の屋上部に行って走ったりキャッチボールをしたりということが行われます。毎夕の日課にしている人もいます。

しんかい6500 どうやって乗るの問題

さて、いろいろ紹介してきたしんかい6500ですが、どうしたらしんかい6500に乗ることができるのか?(放送では学生が乗っていましたが、まだまだ学生へのチャンスは多くはないと思います。)
基本的には、研究者として、海の研究、海の底の研究をおこなうことが正規ルートではないでしょうか。もう一つは、しんかいを運行する6Kチームに入ることでしょうか。

研究者は、国籍問わず乗ることができます。プロポーザルという研究計画を書き、よこすかとしんかい6500を所持している海洋研究開発機構JAMSTECの公募に応募することで、チャンスを伺うことができます。
とりあえずよこすかから、一番近くからしんかい6500やその周辺の様子を知りたいのであれば、よこすかに乗り込むことが手っ取り早いでしょう。
そのためには、海洋の研究を行っている大学や研究機関に所属するのが良いと思います。放送で、海洋研究に携わる人材が減ってきているとコメントがありましたが、つまり、逆にチャンスです!日本中、たくさんの機関で海洋研究を行っています。HPをチェック。

そして、6Kチームはというと、マリン・ワーク・ジャパンという組織のなかにあります。僕は研究以外はほとんど見えていなかった人なので、詳しいことはわかりませんが、JAMSTECと密接に関係していて、一緒に働くことも多く、一緒にサッカーをして遊んだりもしていましたよ。

終わりに

研究者を辞め、逃げてしまった私が言うのもなんですが、研究はとても興味深く面白いものです。楽しさも辛さもあります。たくさんの努力や、類稀なる才能も必要です。でも、そういう人たちが一つの目的を定めて、チームとして立ち向かうのが研究活動です。面白くないわけがないじゃないですか。
そして、海洋・深海底は宇宙と同じくらいに、困難で難解な場所です。息を呑むような光景が、まさに海中・海底にはあります。理論家もロマンティストも興奮する地球最後のフロンティアです。
是非、多くの人が、多くの若者が海に興味を持ってくれたらいいなと思います。

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